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黒薔薇学園の白い百合たち
第16章 婚姻
「何だよ~
判子の一つや二つは家にあるんと違うんか」
ブツブツ文句を言いながら
食堂のオヤジを店の中に招き入れた。
「すんまへんなあ、
いや、儂(わし)んとこの判子と違うねん、
日向と土方の認め印を売って欲しいねん!」
ほらよ、これでええんか?
吉田さんは棚から二つの印鑑を差し出した。
「おおきに!ほんま、恩にきるわ!」
食堂のオヤジは二つの印鑑を握りしめると
千円札を差し出して「釣りはいらんで」と
慌てて店を出ていった。
「なんや、けったいなやっちゃな…
釣りはいらんって…丁度やないかい!」
何にせよ、これでまた熟睡させてもらえると
吉田さんは店の戸締まりをして寝室に急いだ。
圭介が印鑑を用意してくれたので
私と雅人さんは
留美子、圭介おじさん、清美さんに見守られながら
粛々と捺印した。
「由里ちゃん…差し出がましいようやけど…
婚姻の証人欄に署名させてもろてもええやろか?」
でしゃばるでもなく
落ち着いた声で清美さんがそう言った。
そうでした!
証人欄に署名が必要なのを失念していた。
「ほら、土方さんの証人にはあなたが書いて上げて…」
まるで初めての共同作業とばかりに
ニコニコしながら二人は婚姻届に証人欄に署名した。
「よっしゃ!これを提出すれば
二人は晴れて夫婦やで!」
市役所まで送っていくからと
圭介おじさんはワゴン車をガレージから動かしてくれた。