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ラズベリーの甘い誘惑
第3章 鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
俺も人が悪い。性癖が悪い。歪んでいる。
雫を前にすると自分の凶暴な部分を抑えきれない。
苦痛に歪む表情が、俺の中に住む醜悪な獣を刺激する。
泣き声が耳に心地よくて、止められないのだ。

雫の頭を押さえ込んで、そのままがんがんに揺さぶってやろうかと考えていた矢先、パンッという軽い音が響いた。
そこへ視線を向けると、分厚いスケジュール張を閉じて、こちらを睨みつける千晶の姿が目に入る。
先程の音は、スケジュール張を閉じる際に、千晶がわざと立てたらしい。

「以上です。わかりましたね」
「……あぁ」

もう既に今日の予定など頭にはない。
適当に相槌を打てば、千晶は深く溜息をついた。
どうやら聞いていなかった事はお見通しのようだ。
会議の前に迎えに来ますからと言って、千晶は踵を返した。

今日はやけにあっさり引き下がるな。
いつもならば復唱の一回や二回やってみせるというのに。

千晶はそのまま部屋を出て行くのか、扉を静かに開けた。
と、ちらりとこっちを見て、再び溜息。
少しだけ哀れそうに俺を、いや、机によって隠されている俺の下半身辺りを見て、呆れたように、

「ほどほどにしろよ。可哀相だろ」

と、普段の口調で言い残し、扉が静かに閉まった。
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