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全部、夏のせい
第9章 愛別離苦

「そんな未開の地に行くなら、予防接種も必要ね?」と祖母に言われて、病院に行こうとしていた朝、
思い掛けない来客があった。
アラムと結婚したいと挨拶に行って、
碌に話も聴いてくれなかった父と、
それ以来、時々こっそり様子を見に来てくれていた母だった。
「グランマー!!」と言って、
アダムが嬉しそうに飛びついてしまうのを見て、
父は、母がこちらに来ていたのに気付いたのだろう。
というより、それを知っているような顔をしていた。
「こんな朝早くから、どうしたんです?」と、
祖母が怪訝な顔で父に言うと、
「話がある。
入って良いですかね?」と言う。
「どうぞ?」と祖母が言うので、
私は来客用のスリッパを並べると、
「久し振りだな。
元気だったか?」と父は優しい顔で言った。
応接室に入って貰って、
紅茶の支度をして、
ワゴンに載せて行く。
丁寧にポットやカップを並べると、
「真麻が淹れるお茶を飲むのは、
本当に久し振りだな」と父が呟く。
一口、紅茶を啜るとカップをテーブルに置いて、
父は少し厳しい顔をして話を始めた。
「アラムのことは聴いたよ。
大変だったね?」
「…だったって…。
過去形で言わないでください。
ただ、連絡がちょっとつかなくなっているだけです」と言いながら、
唇が震えてしまう。
「ママン…?」と言って、
アダムがその年頃にしては大きい身体で私の膝の上に乗ると、
「アダム?
赤ちゃんみたいにママンに甘えないで?」と祖母に言われて、
恥ずかしそうに膝から降りて、
隣に座り直した。
「過去形って…、いや、そういう訳で言ったつもりでは…」
「パパは、アラムが居なくなって、
良かったと思ってるんでしょう?」と言うと、
母は、
「真麻さん、なんてこと!
パパはそんなこと、思ってないわよ?」と、
珍しく大きな声で言った。
思い掛けない来客があった。
アラムと結婚したいと挨拶に行って、
碌に話も聴いてくれなかった父と、
それ以来、時々こっそり様子を見に来てくれていた母だった。
「グランマー!!」と言って、
アダムが嬉しそうに飛びついてしまうのを見て、
父は、母がこちらに来ていたのに気付いたのだろう。
というより、それを知っているような顔をしていた。
「こんな朝早くから、どうしたんです?」と、
祖母が怪訝な顔で父に言うと、
「話がある。
入って良いですかね?」と言う。
「どうぞ?」と祖母が言うので、
私は来客用のスリッパを並べると、
「久し振りだな。
元気だったか?」と父は優しい顔で言った。
応接室に入って貰って、
紅茶の支度をして、
ワゴンに載せて行く。
丁寧にポットやカップを並べると、
「真麻が淹れるお茶を飲むのは、
本当に久し振りだな」と父が呟く。
一口、紅茶を啜るとカップをテーブルに置いて、
父は少し厳しい顔をして話を始めた。
「アラムのことは聴いたよ。
大変だったね?」
「…だったって…。
過去形で言わないでください。
ただ、連絡がちょっとつかなくなっているだけです」と言いながら、
唇が震えてしまう。
「ママン…?」と言って、
アダムがその年頃にしては大きい身体で私の膝の上に乗ると、
「アダム?
赤ちゃんみたいにママンに甘えないで?」と祖母に言われて、
恥ずかしそうに膝から降りて、
隣に座り直した。
「過去形って…、いや、そういう訳で言ったつもりでは…」
「パパは、アラムが居なくなって、
良かったと思ってるんでしょう?」と言うと、
母は、
「真麻さん、なんてこと!
パパはそんなこと、思ってないわよ?」と、
珍しく大きな声で言った。

