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全部、夏のせい
第9章 愛別離苦

翌日から、キャンプの中だけだったけど、
アラムの写真を見せながら、
何か知らないか、尋ねまわった。
フランス語も英語も話せない人も居て、
小さいスケッチブックに絵を描いたり、
現地の言葉の単語を書いたり、
アラムと私と息子の家族写真や、
二人の結婚式の写真も見せながら、
必死で訊いてみるけど、
どの人も、知らないと言うか、
とても気の毒そうな顔をする。
日にちだけは過ぎて行く中、
帰国の前日、一人の少年が、
「マーサ?」と私に呼び掛けたので、物凄く驚く。
「えっ?」とその子を見ると、
「これ…」と言って、
泥だらけになった小さい箱を私の手に乗せる。
それは、新婚旅行の代わりにと、
アラムと箱根に一泊旅行した時に、
私がアラムにプレゼントした寄木細工の小箱だった。
私にアラムがくれた箱くらいの大きさだったので、
「僕の大事なもの、これに移し替えようかな?」と嬉しそうに言っていた。
そして、順番に少しずつ動かさないと開かない箱に、
感嘆して、
「これなら、僕かマーサしか開けられないね?」と笑っていた。
「これ、どうしたの?」と訊いても、
少年は英語もフランス語も話せなくて、
首を振るだけだった。
名前を訊いてみると、
「アリ」と言った。
この辺りにはとても多い名前なんだろう。
ふと、アラムの友達のアリのことを思い出した。
アラムの写真を見せて、
何処に居るの?
何処で会ったの?
と訊いても、
小さいアリは首を振るだけだった。
そして、
恐ろしいことに、
手で銃のような格好をして、
寝転んでみせるので、
ゾッとして、震えてしまう。
「ちょっと、ここにいて?
通訳さん、呼んでくるから!」と言って、
もどかしい気持ちで、事務所の小屋に走って、
通訳が出来るいつかの運転手さんの手を引っ張って行ったけど、
少年の姿はなかった。
運転手さんに必死で、
アリという名前と背格好を説明するけど、
「そんな子供は、ここには沢山居るから。
怒られるとでも思って隠れたのかも」と言われてしまう。
翌日ギリギリまで少年を探したけど、見つからないまま、
車で空港に向かった。
空港で飛行機を待っている時に、ルイは苦しそうな顔で、
私にこう言った。
「最初、二人で誘拐されて、自分は解放されたと言ったけど
嘘だったんだ」
アラムの写真を見せながら、
何か知らないか、尋ねまわった。
フランス語も英語も話せない人も居て、
小さいスケッチブックに絵を描いたり、
現地の言葉の単語を書いたり、
アラムと私と息子の家族写真や、
二人の結婚式の写真も見せながら、
必死で訊いてみるけど、
どの人も、知らないと言うか、
とても気の毒そうな顔をする。
日にちだけは過ぎて行く中、
帰国の前日、一人の少年が、
「マーサ?」と私に呼び掛けたので、物凄く驚く。
「えっ?」とその子を見ると、
「これ…」と言って、
泥だらけになった小さい箱を私の手に乗せる。
それは、新婚旅行の代わりにと、
アラムと箱根に一泊旅行した時に、
私がアラムにプレゼントした寄木細工の小箱だった。
私にアラムがくれた箱くらいの大きさだったので、
「僕の大事なもの、これに移し替えようかな?」と嬉しそうに言っていた。
そして、順番に少しずつ動かさないと開かない箱に、
感嘆して、
「これなら、僕かマーサしか開けられないね?」と笑っていた。
「これ、どうしたの?」と訊いても、
少年は英語もフランス語も話せなくて、
首を振るだけだった。
名前を訊いてみると、
「アリ」と言った。
この辺りにはとても多い名前なんだろう。
ふと、アラムの友達のアリのことを思い出した。
アラムの写真を見せて、
何処に居るの?
何処で会ったの?
と訊いても、
小さいアリは首を振るだけだった。
そして、
恐ろしいことに、
手で銃のような格好をして、
寝転んでみせるので、
ゾッとして、震えてしまう。
「ちょっと、ここにいて?
通訳さん、呼んでくるから!」と言って、
もどかしい気持ちで、事務所の小屋に走って、
通訳が出来るいつかの運転手さんの手を引っ張って行ったけど、
少年の姿はなかった。
運転手さんに必死で、
アリという名前と背格好を説明するけど、
「そんな子供は、ここには沢山居るから。
怒られるとでも思って隠れたのかも」と言われてしまう。
翌日ギリギリまで少年を探したけど、見つからないまま、
車で空港に向かった。
空港で飛行機を待っている時に、ルイは苦しそうな顔で、
私にこう言った。
「最初、二人で誘拐されて、自分は解放されたと言ったけど
嘘だったんだ」

