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体育倉庫の狂宴~堕落する英語教師~
第10章 10
それにしても、どうしてこの“美男子”は、女に恥を掻かせることにこうも長けているのだろう――涼子はいささかの感嘆の念とともに、不思議に思った。

               ☆☆☆☆☆

涼子は“勇気”を出して、自分の右肩の上にある、レンヤの方を向いた。

軋む首に懸命の力を込めて、顔を右に曲げた。

そもそも「キスしようか?」と誘ってきたのは、レンヤの方からだ。

               ☆☆☆☆☆

それなのに――レンヤの方を向いて、涼子はもう数え切れないくらい、溜息を繰り返している。

しかしレンヤは涼子に、微塵も唇を近付けようとはしない。

相変わらず意地の悪い――それ故に妖艶な微笑を湛えて――涼子の顔を見つめるだけだ。

彼の両手の人差指も――やはり相変わらず――乳輪の上をゆっくりと転がっている。

               ☆☆☆☆☆

(結局、私の方から……“せがむ”しか、ないのね……?)

涼子はそう思って、なおも「ハァ、ハァ」と熱い溜息を漏らしている薄く開いた唇を、もう少しだけ開いた。

それからその唇の隙間から舌を覗かせて、それをレンヤに見せ付けた――見せ付けながら、視線をやや落として、レンヤの唇をじっと見つめる。

然る後――やや迷ってから――少々あざといと思いつつも、レンヤの唇を見つめる目を細めてみた。

それがレンヤのキスを要求する上で、涼子の出来る限界の仕草――“オネダリ”だった。

               ☆☆☆☆☆

勿論のこと、多くの人々はこの“限界の仕草”を、大したことないと見做すだろう。

しかし生来の真面目な性格が祟っているのか――相手の男女問わず、人に甘えるのが下手な涼子にとっては、この“限界の仕草”も中々に勇気を必要とする挑戦だった。

自分の『柄に合わない』と思った――実のところ、相当に恥ずかしかった。

さらに付け加えるべき重要な要素として、『教師が生徒に、キスをせがんでいる』のだ。

自分は二十六歳の教師で、相手は――その雰囲気は大人びているとはいえ――十八歳の高校生である。
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