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体育倉庫の狂宴~堕落する英語教師~
第16章 16
レンヤが――なおも「クスクス」と笑いながら、涼子に言った。

「先生、今、初めてオレのことを、“名前”で呼んだね……?」

涼子はハッとした――確かに、そうだ。

               ☆☆☆☆☆

確かに涼子は、もう随分と前から――レンヤにキスを強請(ねだ)ろうとしていた頃から、自身の心中でレンヤに語りかける時には、彼のことを「早川君」ではなく「レンヤ君」と呼んでいた。

しかし実際に声に出して「レンヤ君」と呼んだのは、これが初めてだ。

加えて言うなら、涼子は初めて「レンヤ君」と名前で呼んだその後に、「乳首を可愛がって……」などと、続けてしまった訳だ。

               ☆☆☆☆☆

そんな訳で、レンヤの指摘を受けた涼子は――当然の話だが――恥ずかしかった。

今一度、顔が燃えるように、“火照った”。

でも一角の羞恥に身震いする一方で涼子は、レンヤを名前で呼んだことで彼と一歩、親密になれた気がした。

だからその羞恥はどこか“初恋”を彷彿させるような、“甘酸っぱい”匂いを持っていて、きっとその匂いに、唆(そそのか)されてしまったんだろう。

               ☆☆☆☆☆

涼子はつい、こんな“オネダリ”を、レンヤにしてしまった。

「ねえ、レンヤ君、もしよかったら――」

涼子はそう、慎重な前置きをした上でレンヤに――少々“恐る恐る”――尋ねた。

「私のことも『先生』じゃなくて、名前で呼んでくれないかしら……?」

そろそろ涼子は『教師と生徒』という現実的な枠組みを、重い枠組みを、取り外したかった。

取り外してレンヤと、『“男”と“女”』に、なりたかった。

そしてレンヤはそんな嘆願を――レンヤにしては珍しく――あっさりと、聞き届けた。

「いいよ……」

涼子の目に真っ直ぐ視線を向けて、そう囁いてレンヤは、続けた。

「これからは、先生のことを、名前で呼ぶね……?」

しかしながら――レンヤはやはり“意地悪”だった。

涼子の嘆願を、まず承諾する意思を見せたその後で、レンヤは条件を――きっと今この高校にいる女子生徒の殆どにとっては”大したことない”、でも涼子にしてみれば中々に“ハードルの高い”条件を、涼子に提示した。

「ただし――」

レンヤが、言った。
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