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cape light
第2章 花火なんて大嫌いなんですよ、僕は

焼きそばが売れようが売れまいが、そんなこと僕にはどうでもいいことだ。ただ僕の心に重くのしかかる言葉がある。それは……花火。
僕は花火が、大、大、大、大嫌いだ!
あれは確か僕が小学校二年生……いや三年生……四年生だったかもしれない。
これは体育以外何のとりえもない僕と僕の父親くそじじぃと僕の母親くそばばぁの物語である。
「おい、翔。今日は○○海岸に花火を見に行くぞ」
くそじじぃが僕にそう言った。
「翔、夏の宿題は花火の絵でも描けばいいんじゃない?」
くそばばぁはくそじじぃの後にそう続けた。
「……」
気乗りのしない僕は無言だった。
「翔、花火が水中でぱっと開くんだぞ」
「水中で……」
僕はくそじじぃの言葉の罠にここではまった。
「水中花火なんてそう見れるものじゃないんだから」
罠にかかった僕にくそばばぁはさらに甘い言葉の餌を蒔いた。
「水中花火」
僕は声を出してそう言った。心の中でも何度も「水中花火」と繰り返した。そして僕はとうとうこう言ったのだ。
「行く!」
さぞかし元気のいい声だったと思う。いや間違いなく僕は元気はつらつだった。
花火が水の中を海底に向かって突進していくのだ。そしてその水中花火は水底でぱっと、ぱっと、もう一度言う、ぱっと開くのだ。
小学生だった僕にでもそんなことはあり得るわけがないことくらいわかっていた。だってそうじゃないか、水中を火の玉が一直線に潜っていく。だから僕は子供ながらにこう思った。これは国家秘密だ、と。うちのくしじじぃとくそばばぁに国の特殊機関から手紙か何か届いたのだ。そしてその特殊機関が実施する極秘実験に我が家が招待された。
やるじゃないかくそじじぃとくそばばぁ。見直したぞくそじじぃとくそばばぁ。僕はそのとき初めてくそじじぃとくそばばぁを尊敬した。
都の水道局に勤めるくそじじぃが、ローンを組んで購入した(これは僕の予想だ。我が家に金がないのは子供ながらわかっていたから)小っちゃな車の後部座席で、僕は水中花火に思いを馳せていた。
限られた人間だけが国からの招待状を受け取ったはずだ。秘密は少人数で共有するに限る。選ばれた人間はさぞかし口の堅い人間なのだろう。どこかでうっかり話してしまったなんてことになれば、特殊機関はそれを許してくれない。だから僕は、小っちゃな車の後部座席で何度も口にチャックした。
僕は花火が、大、大、大、大嫌いだ!
あれは確か僕が小学校二年生……いや三年生……四年生だったかもしれない。
これは体育以外何のとりえもない僕と僕の父親くそじじぃと僕の母親くそばばぁの物語である。
「おい、翔。今日は○○海岸に花火を見に行くぞ」
くそじじぃが僕にそう言った。
「翔、夏の宿題は花火の絵でも描けばいいんじゃない?」
くそばばぁはくそじじぃの後にそう続けた。
「……」
気乗りのしない僕は無言だった。
「翔、花火が水中でぱっと開くんだぞ」
「水中で……」
僕はくそじじぃの言葉の罠にここではまった。
「水中花火なんてそう見れるものじゃないんだから」
罠にかかった僕にくそばばぁはさらに甘い言葉の餌を蒔いた。
「水中花火」
僕は声を出してそう言った。心の中でも何度も「水中花火」と繰り返した。そして僕はとうとうこう言ったのだ。
「行く!」
さぞかし元気のいい声だったと思う。いや間違いなく僕は元気はつらつだった。
花火が水の中を海底に向かって突進していくのだ。そしてその水中花火は水底でぱっと、ぱっと、もう一度言う、ぱっと開くのだ。
小学生だった僕にでもそんなことはあり得るわけがないことくらいわかっていた。だってそうじゃないか、水中を火の玉が一直線に潜っていく。だから僕は子供ながらにこう思った。これは国家秘密だ、と。うちのくしじじぃとくそばばぁに国の特殊機関から手紙か何か届いたのだ。そしてその特殊機関が実施する極秘実験に我が家が招待された。
やるじゃないかくそじじぃとくそばばぁ。見直したぞくそじじぃとくそばばぁ。僕はそのとき初めてくそじじぃとくそばばぁを尊敬した。
都の水道局に勤めるくそじじぃが、ローンを組んで購入した(これは僕の予想だ。我が家に金がないのは子供ながらわかっていたから)小っちゃな車の後部座席で、僕は水中花火に思いを馳せていた。
限られた人間だけが国からの招待状を受け取ったはずだ。秘密は少人数で共有するに限る。選ばれた人間はさぞかし口の堅い人間なのだろう。どこかでうっかり話してしまったなんてことになれば、特殊機関はそれを許してくれない。だから僕は、小っちゃな車の後部座席で何度も口にチャックした。

