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女優なんて…
第9章 村を出てゆく
デスクの片付けをするために
午後から役場に顔を出した。
私を見かけると助役さんが慌てて駆け寄ってくれた。
「聞きましたよ…
役場を辞めるんですって?
しかしまあ、なんと言うか急な話だねえ」
村長から、ある程度の事は聞いているだろうに
そこは言葉を濁してくれた。
「次の職のアテはあるのかい?」
「いえ…突然だったもので…
まだ、何も決めていないんです」
「もし、東京に出ていくのなら…」
助役さんはそのように前置きして一枚の名刺をくれた。
「これは…?」
「言っただろ?私はさあ、若い頃は演劇をしていたんだ。そのときの後輩が、今、劇団を主宰しておるんだよ」
何か困ったことがあったら訪ねなさい。
私の名前を告げれば悪いようにはしないはずだよ
そう言って、助役さんは私にハグしてくれた。
私は、この村が大好きでした。
村民の暖かさが大好きでした。
人目を憚らず
私は助役さんの胸の中で号泣していました。
夕刻にはロケ隊の撤収作業が終わり、
各スタッフがそれぞれの車に乗り込み村を後にしようとしていました。
出てゆく車列を見送りながら
手を振っていると、目の前にリムジンが停車した。
「あなた、これから先どうするの?」
窓を半開きにして涼風さんが私に声をかけてきた。
「本当に何も決めてなくて…」
「それなら、私の付き人になりなさい」
「えっ?」
「いいから乗って!中でお話をしましょう」
そのわがままな姿はいつもの涼風さんでした。
彼女は私を強引にリムジンに乗せると拐(さら)うように村を後にした。