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女優なんて…
第9章 村を出てゆく

高速道を快適に疾走して
夕刻前には東京に着いた。

「その名刺のアドレスだとこの辺りなんですけどねえ」

「ありがとうございます」

私はリムジンが交差点で赤信号で停車したのを機に
車を降りた。

道中、車の中から訪問させていただくことを
劇団の方へ連絡を入れてある。
後は実際にお会いして面接をしていただく運びとなっていた。

何度か近辺をウロウロして
ようやくその劇団の事務所というのが
雑居ビルの一室であることがわかった。

その部屋の扉の前に立ち、
私は深呼吸を繰り返して心を落ち着かせて
ドアの呼び鈴を押した。

『はぁ~い』

気だるい返事の後にドアが開いて
無精髭の男が姿を現した。

「あの…私、連絡をさせて頂いた有明優美子と申します」

「ああそう。お待ちしておりましたよ
案外と早くお着きになったんですね」

さあ、どうぞ。

無精髭の男は私を快く迎え入れてくれた。

劇団の事務所というからには
大きな事務所を想像していたのですが
私が足を踏み入れたその場所は
学生時代に下宿していた私のワンルームマンションほどの広さの部屋をパーティションで無理やり部屋を区切っているような有り様でした。

「ささ、遠慮なさらずにどうぞ」

無精髭の男の案内で
私はパーティションの奥に歩みを進めた。


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