この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
女優なんて…
第9章 村を出てゆく

「紹介するよ、こちら…ええっと…」
紹介すると言っておきながら
私の名前が出てこないのか
近藤さんは先ほどコピーを取った免許証のコピーを
ガサガサと探し始めた。
面倒くさいので私は自分で自己紹介をしました。
「有明です
有明優美子と申します」
席をたって腰を直角に折り曲げて
丁寧にお辞儀をした。
「そうそう!有明さんだ
有明さん、こいつは桐生と言ってうちの劇団の独活(うど)の大木だ」
「そういう紹介の仕方はやめてくださいよ」
桐生さんはムッとした表情で主宰の近藤さんを睨み付けた。
そして私に視線を移すと
途端に柔和な微笑みを浮かべて「桐生です、桐生俊哉と言います」と挨拶をしてさりげなく握手を求めて右手を差し出した。
『スマートな挨拶だわ』
私も慌てて手を出して彼の右手と握手した。
「こいつはね、ただの大木(たいぼく)じゃないんだよ、なんてたってうちの本やなんだから」
「本や?」
「近藤さん、彼女、もしかして素人さん?
それなら、本やといっても通じないよ
本やというのは、つまり脚本家と言うことです」
桐生さんは私の手の感触を楽しむように
いつまでたっても握手を離してくれません。
「おいおい、いくら女に飢えているとはいえ、
そういつまでも握手をし続けるのはどうしたものかね」
近藤に注意をされて
ハッと我にかえって
桐生さんは慌てて私の手を離した。

