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女優なんて…
第9章 村を出てゆく

「紹介するよ、こちら…ええっと…」

紹介すると言っておきながら
私の名前が出てこないのか
近藤さんは先ほどコピーを取った免許証のコピーを
ガサガサと探し始めた。

面倒くさいので私は自分で自己紹介をしました。

「有明です
有明優美子と申します」

席をたって腰を直角に折り曲げて
丁寧にお辞儀をした。

「そうそう!有明さんだ
有明さん、こいつは桐生と言ってうちの劇団の独活(うど)の大木だ」

「そういう紹介の仕方はやめてくださいよ」

桐生さんはムッとした表情で主宰の近藤さんを睨み付けた。
そして私に視線を移すと
途端に柔和な微笑みを浮かべて「桐生です、桐生俊哉と言います」と挨拶をしてさりげなく握手を求めて右手を差し出した。

『スマートな挨拶だわ』
私も慌てて手を出して彼の右手と握手した。

「こいつはね、ただの大木(たいぼく)じゃないんだよ、なんてたってうちの本やなんだから」

「本や?」

「近藤さん、彼女、もしかして素人さん?
それなら、本やといっても通じないよ
本やというのは、つまり脚本家と言うことです」

桐生さんは私の手の感触を楽しむように
いつまでたっても握手を離してくれません。

「おいおい、いくら女に飢えているとはいえ、
そういつまでも握手をし続けるのはどうしたものかね」

近藤に注意をされて
ハッと我にかえって
桐生さんは慌てて私の手を離した。

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