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女優なんて…
第9章 村を出てゆく

「いらっしゃいませ…
何をお飲みになりますか?」

最初の客だと陽子ママに言われたけれど
顔見知りの桐生さんなので私はリラックスして
彼にドリンクの注文を伺った。

「じゃあ…水割りをもらおうかな」

「かしこまりました」
そう言ってみたものの
あまりお酒を飲まない私は量の加減がわかりません。
まあ、いいか水割りだもん、ウィスキーを水で薄めればいいのよね

私は躊躇いなくウィスキーをグラスにドバドバと注いだ。

「それじゃあ、ダメよ!」

陽子ママからの叱責が飛んできます。

「まずグラスに氷を入れなさい」

半分ぐらい注いだウィスキーのグラスを
スッと横に退けて、真新しいグラスを渡されました。
『氷が先なの?』

一つ…二つ…
氷をグラスに入れる度に
チラチラと陽子ママの顔を伺う。

三個目の氷がグラスにインした時に
陽子ママが助け船のように
小さく頷いてくれました。

次にウィスキーをグラスの四分の一ほど注ぐと
再び陽子ママが『それぐらいよ』と
小さく頷いてくれた。

「こんなに少量でいいの?」
思わず私は声を出して驚いてしまいました。

「最初は薄めでいいの
二杯、三杯と少しずつ濃くしていくのよ」

いきなり濃くしてしまうと
お客さまは満足しちゃってグラスを空けてくれないから、そうなると商売あがったりじゃない

私の耳元で陽子ママは薄くても濃くてもお値段は一緒なんだからねと
悪戯っぽく微笑んだ。

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