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女優なんて…
第12章 涼風あかねと安岡健一
「シーン765、よぉ~い、スタートォ!」
助監督が、監督の号令にあわせて
カメラレンズの前でカチンコを打ち鳴らす。
ラブホテルのキングサイズのベッドに潜り込んだ安岡と涼風あかねは、とても仲良さそうに抱き合う。
「深雪…こんな大都会の真ん中で
また巡りあえるなんて奇跡だよ」
「私、信じてた…
あなたなら、きっと私を探しだしてくれると…」
深雪役の涼風あかねは
甘えるように安岡の胸に顔を埋める。
男は、それを引き剥がすようにすると
脚本ではキスはまだまだ先の事なのに
安岡はそれを無視してあかねの唇を貪ってきた。
カメラに写らないように
あかねは顔をレンズから逸らして
『この野郎!』と安岡を睨み付ける。
なのに安岡は穏やかな微笑みで受け止めて
「好きなんだ!深雪!!」と
無理やりあかねの顔をカメラに向けて
唇を落としてくる。
「あの時のまま、薄ピンク色の可憐な唇だね」
微妙に脚本の台詞とは違う言葉を投げ掛けてくる。
アドリブを受けてやるのも大女優と言われる所以だとばかりに、あかねは「そう言ってもらえて嬉しいわ」と自然な流れで受け返した。
大白川監督が「本当に入れんなよ」と
冗談半分で安岡をそそのかす。
もちろん監督の声は編集で消去するので
あちらこちらからいろんな指示が飛び交う。
掛け布団の中では
安岡の手と涼風あかねの手が
激しいバトルを繰り返していた。
実際に局部が映るわけではないので、
本当に触ったりする必要はないのだが、
安岡は「監督はリアリティーを求めてんだよ!」と小声で触らせろと催促してくる。
当然、あかねは必死に乳房と股間を防御しているが
体のあちらこちらを愛撫されて
自然と顔が真っ赤になってくる。