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女優なんて…
第15章 女優デビュー

そんな風に舞台あいさつがてんやわんやになっている頃、
私は産婦人科医の診察を受けていた。

検査が終わって、再び診察室に呼ばれて足を運び入れると、私の顔を見るなり産婦人科医は破顔になって「おめでたですよ」と幸運を告げる神になったかのように私に宣告した。

「あなたは未婚ということですが…父親の心当たりはありますか?」

幸運を告げる神の顔は
カルテを見て私が未婚だと知ると
今度は笑みの消えた顔で裁判官のように感情を消して私に問いかけてきた。

『お腹の赤ちゃんの相手…』

どっちなんだろう…
私の脳裏に二人の男の顔が浮かんできた。

映画で共演した安岡健一か…
それとも…桐生さん?

「産むか、堕胎するか…
とにかく父親に心当たりがあるのなら
しっかりと話し合ってみることですな」

私の顔色を伺いながら
こりゃあ、絶対に堕胎するタイプだなと
産婦人科医は確信した。

診察を終えてあかねさんの部屋に戻ると
どうやら記者会見も終わったようで
先に涼風あかねさんが部屋に戻っていた。

「どうだったの?」

心配げに見つめてくれる彼女の顔を見れなくて
私は背を向けて「妊娠していました」と
小さな声で告げた。

「相手に心当たりは?」

「えっと…たぶん安岡さんか、」
桐生さんかと名前を告げる前に

「安岡じゃないわ」と
あかねさんは安岡がお腹の赤ちゃんの父親になり得ないと打ち消した。



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