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女優なんて…
第6章 本番

「誠二さん!?何でここにいるんですか!?」

役に入り込んでいるのか
涼風さんはいつもの涼風さんとは思えないような顔つきで、誠二という役名の安岡を見つめた。

「何でって、今日はアンタの誕生日だったろ?」

涼風あかねの後のセリフだけに
一層に安岡の棒読みのようなセリフが恥ずかしい。

誠二役の安岡は、セリフを言いながら
カバンから何かを取り出すと、
こつんと私涼風さんの頭を軽く叩くように小さな箱を当てた。

「二十五才おめでとう」

じわじわと嬉しさが込み上げてくる表情を見せる涼風さん。
『上手だわ』素人の私でさえ、見事な演技に見惚れてしまう。

涼風さんが演じる女性は
誠二役の安岡から小箱を受け取って
誠二に思いきり抱きつく。

誠二は「おいおい」と言いながらも
涼風さんを抱きしめてくれる。

涼風さんがぎゅうと誠二に回した腕に力をこめると、誠二はやわらかく頭を撫でてくれた。

「君が欲しいんだ」

にこにこと笑いながら誠二役の安岡は
そう言うと涼風さんが思い詰めたようにうなずいた。

涼風さんの体に覆い被さるようにして
見下ろしてくる誠二役の安岡…
今までにない撮影の雰囲気にスタッフ一同の目が血走っていた。

「美雪…」

深雪というのが涼風さんの役名なのだろう。

安岡は熱のこもった目と声で、
深雪の名前を呼ぶと、

「は、い…」

深雪役の涼風さんが
その熱に浮かされるように返事をしていた。

次の瞬間唇が合わさって、
深く舌を差し入れられる。

口の中を誠二の舌がかき乱して、
深雪はそれに翻弄されるばかりだった。

消え入るような声で「気持ちいい」と言って、
誠二の背中に手を回した。

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