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女優なんて…
第6章 本番

「カァ~トッォ!!はい、オッケー!!」

大白川監督の号令と共に
安岡は涼風を抱きしめた余韻に浸りたそうだったが
涼風はそれに反して
彼の腕を振り払うかのように
スッと体を離した。

「おいおい、もうちょっと仲良くやろうよ」

「はぁ?カットが、かかったのよ
いつまでも抱き合う筋合いはないわ」と
まだまだ涼風さんの体の柔らかさを楽しみたい安岡から逃げ去った。

少しムッとした表情の安岡に向かって
「男優さん、テンションを維持してくれよ
このまま女優のスタントを使って濡れ場を撮るからよ」
大白川監督は安岡の機嫌をとるように宥めた。

片や涼風さんと言えば
「ヤスケンったら、舌を入れすぎなのよ!」
とマネージャーの樹(いつき)から受け取ったミネラルウォーターでガラガラと何度も嗽(うがい)をして
口の中を漱(すす)いだ。

「そんな露骨にイヤな事をするなよ
世の中には僕とキスしたい女が沢山いるんだぜ」

安岡は涼風とのキスの余韻を楽しむように
唇を何度も舌なめずりした。

「よぉ~し!、それじゃあ、濡れ場を撮るぞ!」

大白川監督の鶴の一声で
スタッフに緊張の糸が張りつめた。

「さあ、あんたの出番だよ」

安岡は私に近づいてきて
手を取ると、先ほどまで涼風さんと抱き合っていたポジションに導いた。

「もしかして…私が涼風さんの影武者?」

ようやく私は涼風さんのヘアスタイルを似せて
同じ衣装を着せられた理由がわかった。




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