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駆け込んだのはラブホテル
第15章 入浴剤



 いつになったらこの人は、恥ずかしがらなくなるのかなと思いながら、まあいいか、可愛いから、と、守屋は洗面所に向かった。



「優しいなって思ってますよ」

 その背中に、桜木が声を掛けた。

「優しくしてくれて、ありがとうございます」

「……いえ、」

「ひとつ、伺ってもいいですか」



 桜木の声が小さく聞こえたのは、守屋が桜木から離れたからか、桜木が声を潜めたからか。



「何でしょうか」

 守屋が振り返ると、桜木は布団から目だけ出して、そしてその目もちょっと伏せて、言った。



「……あんまり、魅力的じゃなかったですかね」

「何が――」



 聞きかけて、守屋は桜木が何を気にしているのか悟った。



「馬鹿だな」

 守屋は苦笑する。

「魅力的、でしたよ。でも、しんどそうな様子を見たら、流石にそんな気分にはなれませんって」



「……優しいんですね」

「そういうこと言うなら、今度は電気点けさせてください」

「そ……それは……!」



 桜木がおどおどと目を泳がせ、

「検討させていただきます」

 仕事みたいな口ぶりでそう言った。



 守屋はちょっと笑って、改めてドライヤーを取りに向かいながら、桜木を大切にしたいという意志を少しは示せているといいけれど、と思った。



 それから、桜木のバスローブから零れた下着を取り上げながら、あとで所有印は押させてもらおう、と考えてしまった自分を、優しくないなと思った。


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