この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
駆け込んだのはラブホテル
第5章 普通に、普通に……
まだそんな元気があることが、守屋にとっては驚きだったが、それも致し方ないことに思えた。
だって、女性と泊まるなんてはじめてだ。
まして、日頃から好意を持っていて、しかし仕事に支障が出るからと、それを押し殺してきた相手。
何が失敗だったかって、ホテルの予約を確認しなかったことより、今回の出張を、ちょっと桜木のラフな格好が見られるかもしれない程度の下心で引き受けた時点で、もう失敗していたのかもしれない。
守屋は、どうしたものかと頭を抱えながらソファに座り、バスルームのドアが開くのが先か、エントランスのチャイムが鳴るのが先かと待っていた。
それから数分経って、バスルームのドアが開いた。
「守屋さん、ここのお風呂、何でも揃っていてすごいですよ。クレンジングも化粧水も乳液もあるし、櫛はもちろん、ピーリングとか、マウスウォッシュまであります」
その隙間から顔を出した桜木は、膝丈のタオル地のワンピースを身に纏い、肌はしっとりと上気していた。
その姿にまた心臓を鷲掴みにされた守屋だが、敢えてなのか、普段と変わらない明るい声で報告する桜木に、無理やり心を落ち着ける。
そう、別に桜木は、色仕掛けをしているわけではないのだ。勘違いしてはいけない。
守屋も、普段の会社でと変わらない、普通の会話を試みる。
「たぶん、予定外の宿泊で使うことも多い場所だからでしょうね」
「……なるほど」
内容が内容なだけに、普通の会話にはなりえなかった。
少し顔を赤らめて俯いた桜木に――やめろ。そんな可愛い反応をするな。
さっきまで、タオル一枚で平気な顔をしていて。
「……先ほどは、はしたない格好で失礼しました」
謝らなくていいから、蒸し返さないでほしい。