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駆け込んだのはラブホテル
第7章 気まずい朝



しばらくして、桜木がぽつりと言った。

「仕事、辞めるんですか」

「えっ」



 守屋が慌てて自分のスマホの所在を確かめると、桜木がそうしてくれたのだろう、ローテーブルの上で充電器に繋がれていた。
画面を開くと、数時間前に登録したばかりの転職サイトから通知が来ていた。



「辞めないでください」

 桜木のその声は、泣きそうだった。

「……でも……」

 守屋はその続きを言い淀む。



「私のせいですか」

 桜木の顔は、苦しそうに見えた。

「仕事、辞めないでください」

「……桜木さんは、いいんですか」

「私は、守屋さんがいいんです」



 その声は、その台詞は、まるで――いや、先輩としてだとわかっている。職場の直属の先輩として、守屋がいいと、そう、



「……ありがとうございます」

 桜木は、ゆるゆると顔を横に振って、それでこの話は終わった。



 守屋は桜木と入れ替わりに洗面所で着替えをし、スーツケースの中身を整理し、結局部屋を出たのは十二時ぎりぎりだった。

雨は上がっていた。
夏の始まりと呼びたいような快晴だった。


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