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駆け込んだのはラブホテル
第7章 気まずい朝



 桜木は、昨夜のことに何も触れてこなかった。

守屋は、桜木が本当に寝ていたのだと思いたくなる。

いや、彼女は確かに起きていた――いや、起きていたか寝ていたかなど関係ない。
寝ていたならなお、やってはいけないことをしたのだ。

それぐらいの分別はある、と、守屋はとうとう切り出した。



「……すみませんでした」

「え?」



 洗面所で、ドアを開け放したまま髪を結んでいた桜木が振り返る。
声が小さすぎて聞こえなかったようだ。
大きな声では非常に言いにくいことだが、仕方がない。
謝らないという選択肢はない。



「昨夜は、すみませんでした」

 桜木は、手を止めたまま、目を泳がせた。

「何のことですか」

「昨夜、あの……起きてましたよね」



 桜木が顔を伏せて向こうを向く。
しかし、鏡に映った顔が真っ赤なのは、守屋から見えてしまっていた。



 桜木は小さな声で、

「いいえ、寝てました」

と答えた。



 桜木は、再び髪を結び始めた。
守屋は、その場でじっとしていた。


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