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駆け込んだのはラブホテル
第8章 満員電車は不可抗力?
さすが東京駅だけあって、ほとんどの客が降りるようだった。
その流れに押されるように、守屋と桜木も電車を降りた。
守屋は、自分の腰の前に掲げるようにビジネスバッグを持った。
その後ろを、桜木が俯いたままついていった。
駅のホームで、真っ先にエスカレーターを目指す人々から外れ、落ち着ける階段裏のスペースを見つけて守屋は立ち止まった。
桜木も、同じく立ち止まった。
「……ごめんなさい」
守屋の第一声はそれだった。背を向けたままだった。
「いえ、守屋さんは、その……悪く、ないです」
その桜木の言葉は、今回ばかりは、ある程度まで正しかった。
「……桜木さん」
守屋はゆっくり振り返る。
「どうして――」
「聞かないでください」
桜木は頑なに俯いたまま、守屋の目を見ようとしなかった。
「……わかりました」
守屋が折れた。
「話は、新幹線に乗ってからにしましょう。乗り遅れたら、会社に申し訳が立ちません」
「……はい」
人が減るのを待って、守屋と桜木は新幹線のホームを目指した。
機械的に二人はお土産と駅弁を買って、時刻通りの新幹線に乗った。
さっきの話を持ち出すには、新幹線の車内は静かすぎた。
守屋は、このまま日常に戻るぐらいなら、一生新幹線に乗って、桜木の隣に座っていたいと思った。