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駆け込んだのはラブホテル
第8章 満員電車は不可抗力?



「すみません、桜木さん、僕……っ」

「大丈夫ですから」



 静かな電車の中で、ふたりだけにしか聞こえないように、囁き声で会話が交わされた。
守屋は腰だけでも引こうとするが、もうそんなスペースと筋力は残っていなかった。
守屋は、桜木の頭を抱きかかえたくなる衝動を必死に抑えながら、次の駅が来るのをひたすらに待った。
守屋は顔を真っ赤にして、きつく目を閉じて、桜木の背後のドアに額をつけて快感に耐えていた。



 電車の速度が落ち、駅に停まるまでがとても長く、しかしあっという間に感じた。



 車内放送が駅名を告げ、電車のドアが開く。
一瞬、外の風が吹き込み、車内に余裕ができる。
電車は止まっているはずだ。
しかし、守屋と桜木の身体が擦れる振動は収まらない。

どうして、と守屋が目を開けると、自分の腕の中で、桜木が、もぞもぞと腰を動かしていた。

微かに、桜木の小刻みな吐息が聞こえた。

 その姿に、また守屋の下半身は、固さを増す。



「ちょ……桜木さん!」



 小さく咎める悲鳴のような声は、人の流れに押し殺された。
ドアが閉まり、密度の下がらない電車が再び動き出す。
桜木が、電車の揺れに合わせて腰を振る。
守屋は、もうどうにでもなれと思いながら、桜木の首筋にしがみつき、桜木の腰の動きに合わせて腰を振った。
隣の中年男性にバレているかもしれないとか、そんなことを考えている余裕はなかった。

『次は、東京駅、東京駅――』

 電車の車内放送を、こんなに恨めしく思ったことはなかった。
夢から醒めたくなかった。



 しかし、ドアは開く。


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