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駆け込んだのはラブホテル
第1章 大雨とダブルブッキング



「でも……ネカフェより、まだ、ちゃんとベッドもありますし、鍵も閉まるでしょうし。明日も一日パンプスですよ、桜木さん」

 今度は桜木が言葉に詰まる番だった。仕事に支障が、と言われれば、真面目な桜木は黙るだろうというのは織り込み済みだった。

 しかし、予想に反して桜木は、守屋のバッグを掴んだ手は離さなかった。



「……こうしましょう」

 桜木は少し考えて提案した。

「まず、一旦ふたりで部屋に入って、落ち着きましょう。夜ごはんも食べてないですし」

 桜木は言葉を慎重に選びながら続ける。

「ごはんを食べながら、部屋の中で、一緒に最寄りのネットカフェか何かを探しましょう。それで、守屋さんはここを出たらネカフェに直行できます。この雨の中、またネカフェを探して歩き回ることはありません」

「……まあ、それなら」

 守屋が了承すると、桜木はにっこり笑って、

「じゃあ、押しますね」

 唯一残っていた、一〇〇五室の表示をタッチした。



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