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駆け込んだのはラブホテル
第12章 帰りたくないです
店を出てから駅に向かう間、桜木がやけにゆっくり歩いているのに守屋は気がついた。
守屋は、理由を聞くべきか迷いながら、桜木の歩調にそっと合わせた。
もう空は真っ暗だったけれど町はまだ活動している時間だった。
東京のようにはいかないが、まだ開いている店と、季節を問わず街路樹を飾る電飾が、夜を彩っていた。
「守屋さん」
ふと人の波が切れて、一瞬静かになったとき、桜木が守屋に声を掛けた。
「はい」
「さっき言ってた、次の話」
守屋はすぐに思い当たった。
次は、守屋のペースでデートがしてみたいと桜木が言っていた話。
「今でもいいですよ」
食事をするうちに、守屋も桜木も、タメ語混じりの丁寧語に落ち着いていた。
そう簡単に切り替えられるものではなかった。
守屋は、意味を図りかねた。
いや――本当はわかっていた。が、確信がなかった。
「桜木さん……それは」
桜木は俯いて、表情を見せようとしない。
人が通らないのをいいことに道の真ん中で、守屋は立ち止まる。
もうほとんど立ち止まりそうな歩調で歩いていた桜木も、いよいよ足を止めた。
俯いた桜木の顔を上げさせようと、そっと肩に触れると、桜木はびくっと体を震わせた。
それから、
桜木は、手を伸ばして、顔を伏せたまま、守屋の服の裾を掴んだ。
「……これ以上、言わせるつもりですか」
守屋の憶測が確信に変わっていく。