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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第3章 抱かれたい理由


「ん?」

 一人だけ視認できなかった松川土埜の姿を、もう一度周囲を広く見渡して探した。すると一番端の方の川べり。東洋系外国人の団体客に追いやられるようにして、立ち尽くす黒髪の背中を発見する。

 彼女のいる場所と立つ角度からでは、ほとんど滝を見ることはできないと思うのだが。

 妙に感じて松川さんの近くまで歩み寄った時、彼女の横にぴたりと身を寄せた男の存在に気づいた。否、横というよりも、むしろ背後から張りつくような印象である。まるで満員電車の中で、痴漢を受けているような位置関係にも思えた。

 まさか、こんなところで? しかし更に接近すると、松川さんの身体が小刻みに震えているのがわかった。その様子を只事でないと感じ、俺は声を張り上げる。

「土埜!」

 その声に反応して振り返った彼女以上に、身体を大きく揺らして動揺を示したのは密着していた男の方だった。驚いたように向き直った男は、その外見から判断して、おそらく三十前後だろう。

「なっ、なんでもないんだ。本当に……なんでも」

 男は言い訳するように呟くと、そそくさとその場から離れて行く。後を追うべきか、その背中を訝しく眺めていると、Tシャツの袖の辺りを引かれて視線を傍らの彼女に向けた。

「松川さん。大丈夫?」

「……」

 問いかけに応えず、松川さんは黙ったまま俯いている。

「今の男に、なにかされたの?」

 改めて聞くと。

「い、いえ……」

 彼女は、首を小さく振った。

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