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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第3章 抱かれたい理由
「まだ十一時か……」
時刻を呟いたことに、大した意味はなかった。だが、そうしてスマホの画面を眺めた時に、ふと脳裏を過ぎったのは松川土埜の姿だった。様々な観光地を巡りながら、彼女はずっとスマホを眺めていたような気がした。
思い返したその時の表情は、そこはかとなく心許ないもの。仮にも友人たちと一緒に赴いた旅先にあって、なぜ彼女は単独行動を取る必要があるのか。急にそんなことが気にかかっていた。その時――
『ちなみに私、割と近くに住んでおりますよ』
それは彼女自身が読み上げた、SNSに寄せられたというコメント。その文言が、俄かに心を騒めかせた。
「あの子は危うい」
高坂文水のその分析は、おそらく正しい。否、俺自身がそれに共感を覚えていたのだ。滝のところで男を追い払った後、彼女はすがるような眼差しを俺に向けた。
あの眼差しの意味は……?
「人のこと言えねーって。考えすぎだろ」
口ではそう呟きながらも、胸の内にはモヤモヤが募っていく。知り合ってせいぜい数日の彼女のことを、ここまで気にかける理由は定かではない。
それでも、憶えていた嫌な予感を、そのままにはできない気がした。
「ああ、もう」
俺はいら立ちながらスマホを操作すると、メッセージを送信する。
【友達と会えた?】
【もし迎えが必要な場合は遠慮なく言ってね】
昨日出かける前に、夏輝さんや松川さんともメッセージがやり取りできるようにしていた。以来専ら連絡係は夏輝さんだったので、松川さん相手にメッセージしたのはこれがはじめてだ。