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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第4章 かわいい企み?
「バ、バカ! 流石に、前は――」
鏡の中の瑞月の目が、途端に冷めたものとなる。
「バカヤロウは、そっち。なに勘違いしてんの。自分で洗うから、さっさとボディータオルをかして」
「え? あ、ああ……」
タオルを渡すと、一気に手持ち無沙汰になる。当たり前だ。身体を洗っている妹の傍らで、その兄が見守る理由はない。だが、出て行かないのは話の続きが気になるからであって、断じてそれ以外の動機は皆無だ。
困惑している、こちらの様子を認めていたのだろう。瑞月は小さくため息を漏らすと、仕方ないな、といった面持ちで話を続けた。
「あの後、しばらく――なにも考えられなくなって」
「あの後?」
「キスの後。言わせないでよ、こっちだって恥ずかしいんだから」
瑞月は胸の辺りを洗いながら言う。鏡は湯気で表面が曇りはじめ、その光景をぼんやり映すだけだが、それが逆になんとも艶めかしい。俺は視線を大きく逸らすと、話を進めるよう促した。
「悪い。それで?」
「それでって、なんにもないよ」
「ない?」
「頭の中から、すべてが吹っ飛んじゃった。学校でのモヤモヤも、はじめて告白されたことも……」
「それが、俺のせい?」
「そうだよ。あれだけ悩んだ告白の返事のこと。どうしようか考えていた時の、胸の高鳴りが――たった一瞬の出来事で、すっかり色あせてしまった」
瑞月はシャワーで鏡の曇りを流すと、強い眼差しを俺に向けた。
「お兄ちゃんが私の中を、新しい色で染め上げたんだよ」