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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第5章 楽しい一夜の裏側で
会話の最後、顔を背けた横顔は、どこか空虚だった。
そんな空気の一切を吹き飛ばすように、夏輝さんの声が轟いてくる。
「オーイ! 二人ともぉ! お肉、何キロ切ってもらえばいいですかぁ?」
夏輝さんは精肉コーナーの奥で作業するスタッフと直接交渉し、新たにブロック肉を切り分けてもらおうとしているようだった。〝グラム〟ではなく〝キロ〟という単位に少なからず不安を覚え、急ぎ彼女の元に向かった。
「夏輝さん、ステーキ焼くわけじゃないんだから……」
「ええっ? 焼きましょうよぉ。ホラ、ごらんなさいな。あのリブロースのきめ細やかな霜降りの感じを」
夏輝さんは今にも涎を垂らさんばかりだ。俺は小さくため息を吐く。すると、その耳元で。
「なにかありましたか? つっちー、と」
「――!」
不意をつかれ、思わずぎょっと夏輝さんを見た。彼女は小悪魔のように、楽しそうな笑みを浮かべる。背後を振り返ると、松川さんはまだ青果売り場で足を止めていた。
「あった、みたいですね」
単に明るいだけではなく、それは今までにない笑顔だった。そんな顔を向けられ、俺は図星をつかれて焦るより先に、カチンとするものを覚えてしまう。
だったら、言ってやろうか。深く考えるより先に、口を開いていた。
「夏輝さん――」
「ハイ?」
だけど――
「あ、つっちー。ホラ、こっちだよ。お肉お肉」
「ふふ、木葉ちゃん。もう、わかったから」
「……」
その場に松川さんが加わったのを見て、俺は口を噤むしかなかった。