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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第5章 楽しい一夜の裏側で
全部ではないだろうけど、高坂さんにはある程度の事情を見透かされているとは思っていた。松川さんの場合は明らかにそうであったし、そして〝自由〟という言葉の裏には、やはり瑞月との間に、なにかがあったことを暗に匂わせている。
彼女が、どう自由にするつもりなのか、それは想像できないけども……。
「高坂さん。どう言われても、やっぱり帰れなんて言えないよ。それに――」
「それに?」
切れ長の目に、じっと見据えられる。吸い込まれそうな松川さんの瞳と違い、どこか意志の通った、そんな眼差しだ。
いろいろありすぎるから、自分の想いを上手く口にすることはできない。だけど仮に、この状況で彼女が帰ってしまうのだとしたら、俺と高坂さんはそれっきりになるはずだ。連絡先を交換するとか、お互いにそんな無粋なことはしないだろう。性格的にも。
俺は気になっている。あの夜のことも、車の中でキスされたことだって。気にならないはずがない。彼女が俺のことを本当はどう思ってるかってこと。確かに他にもいろいろありすぎるから、そのことだけを考えてたわけではない。
そもそも、自分の気持ちすら定かではないのだ。そんな俺に彼女と向き合える資格があるのか、それすらもわからない。が、それでも――
「もう少し、わかりたいと思うんだ、高坂さんのこと。だから――」
話している途中で突然、彼女は吹き出した。
「アハハ!」
「わ、笑うなよ」
俺にしては真面目に話したつもりだ。それだけに笑われてしまったのは心外である。だが、不快にはならない。彼女には、上手く言えないけど、そういう魅力がある。
「ご、ごめんごめん。だって、マジな顔で、似合わないのに……うふふ」
「どうせ!」
「もう、怒らないの。それに、おかげで帰らなくてすみそうだし、ね」
「え?」
「いいんでしょう? まだ、ここにいても」
「あ、ああ……もちろん」
艶やかであり、どこか毅然としている。そんな顔を見つめて、俺は答えた。
「でも、後悔しないでよね」
「……?」
それがどういう意味なのかはわからないけど、高坂文水が留まってくれることには、やはり俺はホッとしていたのだろう。