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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第6章 いじらしい悪あがき
それでも見どころは、随所にあった。映像の美麗さは圧巻。リアルな街並み、大自然の雄大さ。その他にも、キャラクターの動作や仕草に思わずハッとさせられるシーンもあり、間違いなく一見の価値はあった。
とはいえやはり、映画の世界に引き込まれるという感覚はない。その点では対称的に、華火はすっかり感情ごとスクリーンの中に取り込まれたかのようだった。
「……!」
ポップコーンに伸ばした手を、不意に華火に掴まれて、焦る。
スクリーンの中では、ヒロインが傷つき倒れた主人公の手を握りしめていた。ヒロインは涙ながらに告白を果たすが、意識を失っている主人公には、今は届かない。
「……」
華火は一心にスクリーンを見つめていた。俺の手を握ったのは、どうやら完全に無意識下での行為のようである。ヒロインに己自身を、投影しているのか。
俺は華火の邪魔にならないように、手をひじ掛けの上へそっと導いた。そうして華火に手を握られたまま、映画を終わりまで観ることになった。
そうすることにより、期せずして華火の反応が掌を通じ、逐一こちらに伝わるようになる。緊迫感のある場面では汗が滲み、エモーショナルな場面では更に硬く握りしめた。
そうした彼女の内面の揺らぎが自然とこちらにも働きかけて、映画のダイナミズムを共感させたということなのかもしれない。それからはラストまでの展開では、思いの外スクリーンの中に引き込まれることになった。
上映中、自然と前のめりの体勢になっていた華火は、エンドロールが流れはじめてから、ようやく「ふう……」と小さく息をついて、座席に背をもたれかけた。
するとその時、ようやく二人の手が繋がれていることに気づく。
「えっ? これ……は?」
華火は唖然として、隣の俺の顔を仰いだ。
その反応が可笑しくて、俺は思わず笑う。
「ハハハ、すっかり夢中だったな」
「あっ! じゃあ……わ、私……?」
自分から握っていたことが、なんとなく思い当たったのだろう。華火はすぐに手を放すと、その手を太ももの間に隠すようにして、恥ずかしそうに顔を俯かせた。