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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第6章 いじらしい悪あがき
「涼一さんは、どうでしたか?」
「ああ、思ったよりも楽しめたかな」
別に嘘を言ったつもりはなかったが、上映中に何度も涙を流した華火からしてみれば、やはり言い方に温度差を感じたのだろう。
「やっぱり、ガキっぽいんですかね、私って……」
「そんなことないって。華火と一緒に観たから、そのお陰で楽しめたと思うし」
「私と、一緒だから?」
丁寧に言葉を並べるように、華火は聞いた。
「だって、そうだろ。思わず隣の奴の手を握ってしまうほど劇中に入り込めるなんて、ある意味では才能なのかもしれない」
「あっ……」
華火は声を漏らし、立ち止まると恥ずかしそうに俯いた。
「あんな風に、夢中になれるなんて羨ましいよ。だけど、手を握った相手が俺でよかったな。万一、見知らぬオジサンの手とか掴んでたら、なかなかの一大事だったぞ」
やや冗談めかして言うと、華火は口を尖らせてこう反論した。
「そんなわけないっす。ないに決まってます。あり得ませんよ」
「ん?」
「手を握ったのは、確かに無意識でした。でも、他の人ならしません。それは、絶対に」
「そう、なのか?」
「はい」
はっきりと返事をして頷いた華火に、俺は更に訊ねた。
「じゃあ、なぜ――?」
つい踏み込みすぎたことを俺が後悔するより先に、華火はこう返事をする。
「涼一さんだから、ですよ。だから、私は手を握ったんです。昨日、お酒に酔って抱きついたのだって、同じです。涼一さん……だから、私は」
夜の公園。足を止め少し離れて向かい合った俺たちを、外灯の控えめな光が照らしていた。
華火は真っ直ぐに向けた視線を少し泳がせて、ワンピースの短めの裾を気にしたように、微妙に身を捩った。俺に見せた横顔の、右側の頬の辺り。それが、ほんのりと染まっていくのが、わかる。