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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第6章 いじらしい悪あがき
「……」
夜の公園。ベンチで並んで座り、華火が俺を見つめている。俺の手を握る小さな手も、涙を零した瞳も、こちらの反応を待ちわびているかのようだ。
「……」
待たせるのは忍びないと感じながら、俺は言葉を出せずにいる。握られた手には、きゅっと、僅かな力が加えられていた。
今、華火の気持ちをしって、嬉しいと感じない、わけがない。俺より先に喫茶店でバイトしていた彼女には、以前から多くの好感を抱いていた。否、好感しかないと言っても過言ではない。
浦辺華火は、そう思えるくらい間違いなく〝良い子〟だった。俺たちは仲が良かったし、一緒に働いていても雑談をしていても楽しかった。だけどそれは、恋愛的な意識を通じたことではない。
良好な関係を変えたくなかった。それは俺だけではなくて、同じような考えは華火の方にもあったのではないか。あえて、その領域に踏み入る必要はない。少なくとも、この夏が訪れる前ならそうだったはず。
だから、引き金になったのは華火自身が少し触れたように、昨日の飲酒の一件である。そして俺を取り巻く(ように華火の目に映ったであろう)四人の存在も無関係ではないのかもしれない。
昨夜、酔いから醒めた後で、華火の態度がよそよそしかったのは、既に覚悟を決めていたということなのか。すなわち彼女のそれまでの意志に反し、踏み込ませるきっかけを作ったのは俺の落ち度ということになる。それだけに一層、気分が重い。
嬉しくない、わけがない。けれど、喜ぶ資格が今の俺にはなかった。