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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第7章 乱れる心、あの日の想い
「……」
なにを言いたいのか、それは明白だった。それだけ瑞月が大事だということだろう。当然ながら、あのクソ親父にとっては……。
含み笑いを浮かべ同意を求める五月女さんを、俺はムスッとした顔で睨みつける。
|五月女日名子(さつきめひなこ)。よく見知っているはずの、この大人の女性について、実は俺はなにも知らないのかもしれない。歳はおそらく三十前だけど、ばっちりメークしている今はともかく、スッピンの顔だと五歳は若返って見える。
高校進学と共に家を出て一人暮らしをはじめた時に、俺に対するお目付け役兼世話役として親父がよこしたのが彼女だった。以来、大学に進むまでいろんな意味で文字通り世話になった女性である。
一方で実際に親父の元でどういう仕事をしている人なのか、また親父とどういう関係なのか、それを五月女さんが俺に話して聞かせることはなかった。
ふと、今更でもそれを確かめたい衝動に駆られる。が、どうせ答えるはずがないと自らを諫めて、仕方なく別のことを聞いた。
「さっき、瑞月となにを話してたの?」
ついでのように口にしたことだけど、実際にさっきの様子は気にかかっている。特に瑞月の顔つきは、かなり険しかったように感じた。
横に腰掛けると、さっきの俺と同じようにため息をつきながら、五月女さんは答える。
「別に、今にはじまったことじゃないわ。瑞月ちゃんは私のことが、とにかく気に入らないのよね」
「え、なんで?」
「呆れた。気づいてなかったの?」
「だって、そもそも顔を合わせたことさえ、何度もないと思うけど」
「そうだけど、瑞月ちゃんにしてみたら――」
「瑞月にしてみたら、なに?」
「ううん、やめとく。わざわざ説明する方が馬鹿らしいもの」
「なんだよ、それ?」
「いいから、それくらい自分で考えなさい。言っておくけど、これも大ヒントだから」
「はあ?」