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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第7章 乱れる心、あの日の想い
決して家庭的な男ではなくとも、親父が愛妻家であることは疑いようがなかった。おそらく世間一般のそれとは異なるにしても、異常なほどの愛を捧げてきた様子は、息子の俺が嫌というほど見せつけられている。
結婚以来、週に一度のデートは欠かしたことがないと自慢したことがある。長く家に帰らない時でも、それは例外ではなかったはずだ。そんな親父たちが、どうしてまた?
こちらの疑問に、憂鬱に俯きながら瑞月が答える。
「原因は、私みたい、だね」
「瑞月が?」
瑞月は小さく頷き、話を続けた。
「前に言ったよね。大学入学を期に、私も一人暮らしを始めるって」
「ああ」
「あのお父さんが、よく許したって思わなかった?」
確かに。俺への放任ぶり(放置と記した方が正しいか)に比して、親父の瑞月への溺愛ぶりはまさに異常。言われてみれば、そう簡単に外に出すはずがなかった。
「お母さんのお陰なの。私がどうしても家を出たいってお願いしたら、お父さんに言ってあげるって」
「それを期に、二人が衝突を?」
その問いに、瑞月はそっと頭を振る。
「その願い自体は拍子抜けするくらい、あっさりと聞き入れられたの。でもね――あはは」
「瑞月?」
瑞月は自嘲気味に笑った後で、やるせない顔を俺に向ける。
「一人暮らしを始めて、すぐにわかったの。私の今いるマンションね……同じ階層の他の部屋、全部。お父さんが借り切ってるんだって」
「はあ?」
「笑っちゃうでしょ? でも、それだけじゃないよ。その幾つかの部屋には、お父さんの指示を受けた人が常駐してるの。大学に行く間も友達と出かける間も、私を見張るために」
「そ、そんな……マジかよ?」
いくらなんでも馬鹿げている。そう感じながらも、一方であの親父ならやりかねないだろうとわかっていた。
それだけに、瑞月のジレンマは測り知れないものとなる。その心に抱えたものの一端を示すように。
「ねえ、涼一……私、どうしたらいい?」
「え?」
「このままだと、私……」
瑞月は瞳を潤ませ、すがるように俺を見つめた。