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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第7章 乱れる心、あの日の想い
明日からの日程を考えれば、四人が四人とも笑顔になれる|筋書き《シナリオ》は、たとえ天才作家でも書くのに難儀することだろう。俺が地獄に落ちるシナリオなら、それこそ造作もないが……。
もちろん、それは彼女たちが俺になにかを期待していた場合であり、それが皆無というのなら話は別だ。
「彼女たちにとって、楽しい夏になるといいけど。やっぱり、私としては――」
五月女さんは運転席に身体を滑り込ませた後で、こう続けた。
「できれば瑞月ちゃんにとって、そうなることを祈ってる」
瑞月にとって……?
俺は瑞月から、なにを求められているのか。ご褒美というワード、そして五月女さんが言い淀んだこと。更には親父から強いられたことを合わせ見れば、その答えは形を成しているようにも思う。
だが、それで本当に瑞月が幸せになれるのか。それ以上に、今の俺が踏み込めるのか、その点がまるで未知数だ。
いや、あまりにも飛躍しすぎる。俺は妄想にも似た独りよがりな思考を、そこで打ち切った。
プジョーにエンジンがかかり、運転席のウインドウが開く。相手から別れの挨拶を言われるより先に、俺はスルーされていた件を訊ねていた。
「ねえ……なんでキスしたの?」
「親愛の情」
五月女さんは、事も無げにそう答えた。
「それを表すためにする文化は、この国にはないと思うけどね」
こちらが睨みつけると。
「じゃあ、一緒に来る?」
五月女さんは、助手席を指して言った。
「まだ、からかう気」
「そうでも、ないけど」
「……」
じっと見つめ合った。そして、俺が続けた五秒間の無言を待った上で。
「じゃあ、ね」
五月女さんは手を振り、車を走らせていた。そのテールランプを見送りながら。
「なんなんだよ……ホント」
ため息交じりにそう呟くのが、今は精一杯だった。