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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第7章 乱れる心、あの日の想い
◇ ◇
俺が家を出て一人暮らしをはじめるに当たり、親父との間で交わされた言葉は僅かなものだった。それも電話で。当時、親父から問われたのは、たった一点。
「それはお前なりの、チャレンジか?」
俺は迷った後で、そうだと答えた。本当は瑞月との関係、つまり俺の実の母親のこと(裏返せば瑞月の父親のこと)を隠していた親父に対する、反発の気持ちが九分九厘だった。
「チャレンジを前に、立ち止まる者こそ愚かである」
これは親父の口癖であり、理念とでも言うべきものだろう。つまり、俺はそこにつけ込んだのである。「チャレンジ」でさえあれば、親父はそれに首を振らないことを承知していた。だが実際のところ、俺の一人暮らしに「チャレンジ」という側面は皆無だった。
「はじめまして。五月女日名子と申します。お父様からの申しつけにより、今日からこの家で、涼一さんのお世話をさせていただくことになりました」
貸家の一軒家の玄関で、俺を出迎えた五月女さんに対する第一印象は、仕事のできそうな大人の女性というもの。以後それは段階を経て変わることになるが、その前に俺自身の恥を少し語らなければならない。
十五歳当時の俺は、一人で暮らすにはあまりにも世間知らずだった。問題なのは単に世間を知らないということ以上に、大きく思い違いをしていたこと。それこそ、世間のほぼすべての事象について。
それはやはり、あの親父の息子として育ってきた影響が大きい。一人暮らしをするには、当然まず住む場所が必要になるが、当時の俺がそれをどう考えていたかといえば、金はあるからなんとかなる、というものだった。
実際、俺は世間の人々が聞いたら軽く殺意を抱くのでは、というくらいの財産を有していた。元は親父から月々に与えられていた小遣いだ。現金で貰ったことはないが、もし札束なら〝立つ〟くらいの額だった。