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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第7章 乱れる心、あの日の想い
当然、使い道なんかないが、闇雲に大金を与えられていたわけでもない。親父はその金を元に株式や仮想通貨等々、俺に投資を経験させようとしたようである。それより、俺の〝小遣い〟は更にとんでもない額に膨れ上がっていった。
だが、成功したのは無欲あるいは無知の賜物であって、俺自身にその方面の才があったわけではない。すべてを失ったところでノーリスク。小遣いはいつでも貰うことができた。恐れ知らず故に無茶をして、たまたまハマったに過ぎない。
そのような金を元に適当なマンションを借り、生活費諸々を賄おうとしていたというのだから、我ながら呆れる。金銭的には十分すぎても、当前ながら、そんなものは自立ではない。
しかし、バッグ一つを手に車で送られて行った転居先は、俺が希望したはずのマンションの一室ではなく、閑静な住宅街の一角を占める一軒家だった。
その建屋は真新しくはなかったが、シックで趣のある外観は豪邸と呼んでも差し支えないレベル。高校生の一人暮らしには、なにもかもが不釣り合いだった。
「こんなの、聞いてない!」
いら立ちのまま、俺が発した最初の言葉がそれだ。だけど五月女さんは、視線をやや下げたまま、淡々と話した。
「身の回りのことでしたら、なんでも遠慮なく言いつけてくださって結構ですから」
今となってはすっかりイメージにない、その頃にかけていた眼鏡の表情。そのレンズが、異様に透き通って思えた。
「なんでもって、僕は使用人なんか――」
「使用人ではありません」
急に強くなった言葉と眼差しに、俺は怯んだ。
「じゃ、じゃあ……なんなんですか、あなたは?」
「五月女日名子――あなたのお父様の命で、こちらに参った者です」
彼女は再び自分の名と、来た理由を繰り返した。