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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第7章 乱れる心、あの日の想い
「あなたは、一体どう思ってるんですか」
「なにを、でしょう?」
「僕のことですよ。こんな、どうしようもないガキに仕えるなんて、本心では嫌で堪らないんじゃありませんか」
「……いいえ、そんなことはありません」
五月女さんは、会ってから一度だって感情を見せなかった。大人の表皮を纏ったその顔が、どうにも腹立たしかった。俺は席を立ち、五月女さんに向き合った。そして、言う。
「あなたって、親父の愛人なんでしょう?」
当時、まだ百七十にも満たなかった俺の身長は、五月女さんとほぼ同じ。水平に見つめ合った視線が、キッと険しく変わった――直後。
パシィ!
「――!?」
五月女さんの平手が、俺の頬を打ち鳴らしていた。
「ご……ごめんなさい」
彼女がはじめて表した動揺。それが親父の名に端を発していたことが、またしても無性に気に入らなかった。
「明日からは、もう……来なくていいですから」
「そういうわけには、参りません」
「一人で、平気です」
俺はその言葉を、強がりだと思われたくなかった。
そうして明くる日からの俺は、五月女さんが来る前に目覚め、決して短くない駅までの道のりを歩き、電車で高校まで通うようになったのだ。俺にとって、電車に乗ることすら初体験である。前日にネットで入念に調べ上げたとはいえ、実際に乗る時は心細くて堪らなかった。
帰宅時も五月女さんの車がある内は、たとえ夜になろうとも決して家には戻らなかった。向こうが諦めて帰った後で、ようやく家に入る。それまで同様、食卓には料理が用意されていたけど、どんなに美味そうでも、それに手をつけることはなかった。コンビニの弁当やおにぎりを口にしたのも、この頃がはじめてだった。