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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち


「ね、ねえ」

「……」

 尚も、頑なに彼女は黙っていたが。

「松川さん……?」

 そう呼びかけた後だった。松川さんはようやく、言葉を発する。それも、とても意外なことを。

「つ……土埜って、そう呼んで!」

「は?」

「……くださぃ、ませんかぁ……」

「……」

 あまりの唐突な申し出を前に、こちらとしては閉口するしかなかった。しかし、この反応は我ながらよくないのだろう。それによって、彼女の羞恥心を倍増してしまったとするならば。

「ああっ! だから、無理って言ったのに!」

 一体、誰に言っているのか……。

 恥ずかしかったのは、十分に伝わっている。にしても、松川さんらしからぬこのリアクションはどうだろう。前方の赤信号にブレーキを踏み、停車してから改めてその様子を窺った。

「もう……死にたい」

 松川さんは消え入りそうな小声で呟き、真っ赤に染まった顔を両手で覆っている。

 さっきの言葉が、どういった意図かはわからないけど、同じようなセリフなら前にも言われたことがある。

 ただし、あの時はラブホのベッドの上。共に裸で、乱れ合っている時の、言うなれば男と女の戯言だ。欲望にまみえながら、俺は何度か「土埜」と呼称した覚えがある。

 その場面を思い返せば、俺の方こそ死にたくなるというものだけど……。

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