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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
「松川さん、どうかしたの?」
「ごめんなさい……違うんです」
「違う?」
「あの、私……せっかくのデートということで、ちょっと無理をしてしまったみたい、……です」
初めてのデートに思わずテンパってしまうとか。そんなことは誰にでも、今の俺にだってそれに近い想いがないわけではない。特に今の松川さんは、なんというか可愛らしいのだった。
だけど、不思議。初デート云々以前に、俺と彼女は既に淫らな行為を経験済みだ。四日前のホテルの場面は、今も生々しく脳裏に呼び覚まされている。
それなのに、松川土埜のこのピュアさはなんだろう? テンパって空回って、なにを伝えたいのか理解に苦しむけど、それでも彼女があざとく純真さをアピールしているわけではないと、それはわかるから。
「なんて……今更、ですよね」
「え?」
「あんな風に、ほとんど無理矢理。お兄さんに抱いてもらって……はしたないと思うのに、あんなに何度も繰り返し求めて……そんな女が今更、なにを純真ぶってるんだって、自分でも呆れてます」
「でも、それは……」
「辛い過去があるからとか、そんな風に言ってみても。やっぱり、気味が悪いですよね……こんな、私なんて」
「……」
沈んで語っている彼女の横顔を見つめた後、信号が青になり車を走らせた。
やはり、松川さんの本質はピュアなのだと思う。同時に、そんな彼女があんなにも淫らでなければならない、理不尽がある。その点にこそ、彼女の秘める重層な魅力を、改めて発見した気がする。
それなのに俺は、彼女の片側だけを見て、魔性だなんて言葉を当てはめてみたり。彼女から、過去の壮絶な一場面を聞かせれているのに……。
激しく内省した時、俺は自然にその言葉を発していた。
「つっちー」
「え?」
「あ、ごめん。夏輝さんがそう呼ぶの、なんかいいなって思ってたから」
「そう、ですか?」
「うん、それでさ――俺もどちらかといえば、人との距離を詰めるのは苦手な方っていうか。いきなり土埜なんて、呼び捨てだと無理が出ると思うんだ」