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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
駅付近に近づくにつれ、徐々に交通量が増す。渋滞の最中で車を停め、俺は彼女を見つめた。
「だから今日は、つっちーでいい……かな?」
自分で言っておきながら、そっちの方がいきなりのような気がしている。
でも、とりあえず彼女は――
「はい」
と、頷き。俺の顔を見つめ返して、この日はじめて微笑んでくれた。とても控えめで、柔らかな。それは、松川土埜らしい微笑である。
「そんなわけで、つっちー。どこへ行く?」
「あ、えっと……とりあえず、お兄さんにお任せしても?」
「わかった。じゃあ、適当に行ってみよう」
ハンドルを右に。車の混雑のない方向に、車を走らせる。
ようやくスタートしたこのデートがどう転ぶものか、この時点ではなにも見えていない。もしかしたら、このまま普通に楽しく一日を過ごせるのではと、淡い期待を抱いてみるものの。
きっと、そうはいかない。すぐに、思い直していた。そして、早速。
「あの、お兄さん」
「なに?」
「………になって、いいですか?」
「え?」
聞き返してから、十秒以上後。松川土埜は、その複雑な胸中の片鱗を、覗かせるのである。
「お、お兄さんのこと――」
彼女の眼差しが、俺を見定めた時。
「――好きになっても、いいですか?」
そう言って、大きな瞳から涙を溢れさせた。
この時、彼女はなにを想っていたのだろう――?