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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
◆◆◆視点・松川土埜◆◆◆
「好きになって、いいですか?」
そんな風に言われて、お兄さんが困るのは目に見えていた。いくら、瑞月ちゃんの優しいお兄さんでも、こればかりは……。
なのに、私は言葉を止められずに。どれだけ図々しい女なのだろう。たとえ、そう思われたとしても。言わずには、いられなかった。デートという言葉に彩られた一日は、まだスタートしたばかりだというのに……。
私――松川土埜は、性に囚われてしまったふらちな生き物なのである。自分をどんなに卑下しても、この心が痛むことは、もうない。実際、最低だ。この前は、お兄さんに抱いてほしくて、憐れな過去をひけらかし同情を買った。
だけど、たった今、口にした言葉の中に打算はなかった。心に痛みは感じなくても、それは傷ついていないことと同義ではないから。自分の心がズタズタになっても、それを客観的に眺めていた、それまでの日々がある。麻痺して痛まない事実が、そこはかとなく悲しかった。
いつか、痛みと向き合わなければいけない。だからこそ私は、瑞月ちゃんのお兄さんを好きになろうと思った。もう一度、そこからはじめるためにも。
お兄さんが、私のことを好きになるはずがない。それは、承知している。むしろ、とっくに軽蔑されているのかもしれない。たとえそうでも、構わなかった。