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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
◆◆◆視点・岸本涼一◆◆◆
車を走らせ小一時間。最初に訪れていた場所は、高原にある長閑な牧場。柵に囲われた広大な牧草地では、馬や牛をはじめ多くの生き物たちを間近に眺めることができる。他にも乗馬体験や小動物とのふれあいコーナーなど、夏休みの真っ最中ということもあり、多くの家族連れの客で賑わっていた。
車を降り何気に辺りの風景を見渡していると、彼女が自然と隣に並びかけてくる。俺は鼻の頭を指先で掻きながら、バツが悪そうに言うのだった。
「俺、実はあまり慣れてなくてさ」
「え」
「いや、その……なんていうか、こういうの」
「……?」
いきなり、なにを言い出したのだろう。自分でもそう思うのだから、彼女が不思議そうな顔をするのも無理もないことだった。
咄嗟に「なんでもないんだ」と、出来損ないの会話を誤魔化そうかと悩む。が、今後それが癖になって、その度に空気をおかしくしても悪いので、一応は区切りまで続けることにした。この一日はまだ始まったばかりである。
「あまり経験がないんだ。デート、とか……そんな感じのやつ」
「そう、なんですか?」
すぐ近くにある松川土埜の顔が、こちらの顔をじっと仰いだ。
「う、うん……」
やはり、ドキリとさせられる。彼女の潤んだ大きな瞳に見据えられると、その最中に取り込まれてしまいそうな錯覚があった。