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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち


 けれども、出産をする女としない男との如何ともし難い温度差が、次第に若い二人の生活に影を落とすことになる。母が出産と育児を理由に大学を休学する一方、父は当初からの念願を果たすため学業に邁進する日々を送っていた。

 そして、アレは、父が司法試験予備試験を直前にした頃であり、更にいうのなら母が育児ノイローゼに苛まれはじめていた頃の出来事。

 父は志を同じくする友人のマンションに間借りすると、試験までの二週間という時間のすべてをラストスパートに費やすことを決意。

 一方で母は育児から束の間の開放を得ようとして、実家のある九州に向かう新幹線の車両で呆然と流れゆく景色を眺めていたという。

 父はアパートの留守番電話に、家族のため試験合格の誓いを語る。が、母はその電話の数刻前には既に、東京に住む父の両親に私を託すようにと記した書き置きを残し、一人でアパートを去っていた。その事実だけを連ねれば、どちらも身勝手であると断じられてしまうかもしれない。けれど――

 父にしてみれば家庭を持ったことに大きなプレッシャーを感じていたからこそ、がむしゃらに前進するしかなかったのだろう。母にしてみれば同じ夢を見ていた自分だけが置き去りにされていく現状が、やるせない気持ちに拍車をかけることになったはずだ。

 ともかく、そうしたすれ違いが、私の中に闇を宿す結果を生む。若い夫婦が不在となるアパートで、取り残された当時の私は、まだ二歳にも満たなかった。

 真の孤独という暗闇が幼い私を容赦なく覆い尽くす日々は、そうしてはじまったのである。

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