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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
ここまで見たように語ったことは、けれど、誰一人として目撃したことではない。なにをどうしたのか、あるいはなにをどうできたのかなんて、当時の私が自分で理解できたはずもなかった。だから幼かった私の一切の行動については、結果から察したことにすぎないのである。
約二週間という途方もなく長い時間を、私は必死に生き延びた。その経緯の壮絶さは、アパートの一室の至る箇所における痕跡が、私の代わりに物語ってくれた。
永く閉ざされたアパートの扉が開かれた時。私は力の尽きかけたやせ細る身体で、それでも蠢きながら、差し込んだ光の方を見つめた。
安堵であるとか歓喜であるとか、そういった想いは既に去来することはない。私は只、無感情にそこに立つ二人の姿を眺めたのだ。
そんな私の姿と部屋の有様を目の当たりにして、それらの日々を想像することになった両親は全身から血の気が引いて立っていられなくなったという。酷く汚れて衰弱した小さな私を、抱き上げることもできなかった。
繰り返しになるが、当時の詳細な記憶なんて私の中には残されていない。だから残されているものといえば、それは自分が孤独であるという曖昧なイメージの塊だけ。そしてそれは、とても恐ろしいものだから、後にそのイメージのすべてを私は真っ黒に塗りつぶすのである。
それを心の奥深くに沈めた。それこそが、この私――松川土埜の中に存在する、闇の正体でだった。