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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
普段なら、こんな場面はスルーするに限る。別になんと陰口を言われたとしても、今更気にすることなんてないけど、関わらずに済むことなら関わらないに越したことはなかった。
それなのに、この時に限って、なぜだったのだろう。私の中には、既に予感めいたものがあったのかもしれない。
「ああ――松川さぁん」
矢野くんをからかっていた二人は、私の登場にも悪びれることなく、すぐに口元に笑みを浮かべた。
あ、いいこと思いついた――と、そんな感じの笑みだった。
「ちょうど、よかったよ」
「……」
「ねえ。今の話、聞いてた?」
「……」
私が黙っていると、二人は顔を見合わせて、やれやれ、といった感じの手振りをする。その後で、矢野くんの背中を――ドン!
「うわっ……!」
と、強く押した。
矢野くんは私の方に倒れそうになる寸前で、ぐっと堪える。私より、ほんの数センチ高いだけの、男子にしては小柄な身体だ。
「あ、あの……」
間近で私を見つめると、すぐに顔を上気させて視線を横に向ける。
「……ごめん」
背後の二人はおろか、目の前に立つ私にさえ、やっと届いたくらい。蚊よりも小さい声で、矢野くんは呟いていた。