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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
「矢野がさぁ――松川さんに、大事な話があるんだって」
そう告げると、他の二人はニヤニヤとしたまま、逃げるように教室を後にした。
「あ……えっと」
「……」
「ち、違うんだ……別に」
「違う?」
「いや、その……なんていうのか」
困ったように、頭を掻いていた矢野くんは――
「もう……帰ろうかな」
独り言のように言って、一度こちらに背を向けた、その後で――
「いっ……」
「?」
「…………一緒に、帰らない?」
私を横目でちらりと見ると、声を上擦らせてそう言うのだった。
学校の正門を出ると、私はやや迷った後で、学校前の通りを右側へ。少し後ろに私がついてきていることを確認すると、矢野くんはホッとしたように胸を撫で下ろしていた。
暫くの間は、矢野くんの背中を見ながら、数歩離れて後を歩いていた。やがて細い路地へ折れると、同じ学校の生徒の姿がなくなる。
それを見計らったように矢野くんは立ち止まり、私に聞いた。
「あのさ……松川さんは、アニメとか観たりする?」
その、なんでもない質問をするのに、矢野くんはかなり緊張していたようだ。拳をぎゅっと握りしめるようにして、私の返事をじっと待っている。