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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち


「うん、時々なら」

 高校に入ってから友達でいる子たちは、アニメが好きが多いので、私もなるべく観るようにしていた。もちろん楽しむためではなく、あくまでも見かけ上、会話に支障が出ないように。

「ホ、ホント?」

 矢野くんは、ぱっと表情を輝かせ、それまでが嘘のように饒舌に話し始めた。彼の話すアニメの話題はマニアックで、私は半分も理解できなかった。

 それでも普段から培ってきた〝聞き上手〟のスキルがある。私は微笑を浮かべ時に適切な相槌を挟む。彼がもっと自然と、話しやすくなるように。

「あ、あとさ――」

 彼は徐々に、大袈裟な手振りを加え、話を続けた。その拍子、隣を歩く私と、僅かに指先を触れ合わせた。

「!」

 彼はぎょっとして歩みを止めると、数秒間、私をじっと見つめた後で、こんなことを言った。

「あのさ、手を……繋いでみない?」

「どうして?」

「どうしてって……い、嫌なら、いいんだけど」

「……」

 矢野くんは、微笑を浮かべて話を聞いているこちらの反応を、脈ありと感じたよう。いろんな男の人と身体を重ねてきた今では、そう考えることもできる。

 だけど当時の私には、どうして彼がそんな提案をしたのか、まるでわからなかった。

 日々を誤魔化しながら、生きていた私の頭の中に、男女の恋愛のことなんて、毛の先ほどもなかったのだ。だけど、予感はあった。なにか、違うことが起こるような予感が。

 だから、私は――

「いいよ」

 と、言った。

「ホ、ホントにいいの?」

「うん」

「じゃ、じゃあ――」

 そうして、矢野くんと手を繋いだ私の前に、今までとは異なるイメージが展開された。

「!」

 それは些細な変化だけど、確かな変化に思えた。

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