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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
「心の奥の闇の手前には、透明なガラスの仕切りがあったんです。そのガラスが白く塗られて、一時的に闇が見えなくなったと錯覚していただけ。だから涼一さんの言うように、隠すというのが正解」
「つまり……心の闇の本質は、なにも変わらなかった?」
「はい。今にして思えば、そうなんです。気づくのが遅すぎて、馬鹿なんですね、ホントに……私」
「つっちー」
「いいんです。それを認めなければ、前には進めませんから。たとえ闇が晴れても、無自覚に負っていた傷の痛みとも向き合うことができません」
「無自覚の……痛み?」
彼女は小さく頷き、こう続けた。
「矢野くんとのことがあったその夜から、確かに悪夢に苦しむことはなくなりました。だけど数週間が過ぎた頃から、また心にはそこはかとない不安が、次第に大きくなっていって……」
彼女は激しい頭痛に襲われたかのように、眉根を寄せきゅっと瞳を閉ざした。だけど指でこめかみの辺りを押さえると、瞼を開け静かに言葉を続ける。
「……それで、自分から誘うような真似をしたんです。でも、矢野くんからはすっかり敬遠されてしまった。無理もないですよね。きっと私のこと、薄気味悪く感じたはずです。彼だってあの時が、はじめての経験だったのに……」
「話を聞く限り、だけど。少なくとも、その矢野くんに対して、つっちーが負い目を感じる必要はないよ。彼の方だって大概というか……だから」
「ありがとうございます。でも、私はその後、相手を変えて同じことを繰り返すことになります。はじめのころは、一ヶ月に一度でよかった。それがやがて、一週間に一度になり、今では数日に一度――」
話しながら彼女は、スマホを手に取るとその画面を見つめる。
「――相手は誰でもよかった。会ったことすらない中年男性でも、別に。それについては、もうご存じでしたね」