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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
◆◆◆視点・松川土埜◆◆◆
車が停められてた林道は、涼一さんの別荘の辺りとは違って、道も細く鬱蒼として、華やかさの欠片もない場所だった。
「りょ、涼一さん?」
「ごめん。足下は悪いけど、少しだけ我慢して」
「は、はい」
涼一さんは私の手を引いて、どんどんと木々の間を分け入っていく。時刻は、もう午後の六時を過ぎ。太陽の光の届かない林の中は、薄暗くとても寂しげだ。
涼しげな風が通り抜けることもなく、じめじめとした湿気が下着を肌に密着させる。その感触も、石の転がった歩きにくい足下も、顔の周囲を飛ぶ薮蚊も、すべてが不快。
「……」
けれど、それが寧ろ自分にはお似合いだと、ふと思う。暗いトンネル。心の闇。悪夢に怯える日々。この場所は、私の人生を投影している。
ひとつ違うのは、私をどこかに導こうとする人の存在。涼一さんは、私の手を引いて先を急ぎながら、言った。
「半年くらい前に、まるで書けない時期があってさ」
「小説を、ですか?」
「フフ、まるでスランプに陥った人気作家のような言い草だね。俺の場合、単に才能がなくて書けなかっただけかもしれないのに」
「そんなことは、ないと思います」
「ありがとう。つっちーは優しいな」
「そ、そんなこと、ありません」