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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
振り返った笑顔に、思わずドキリとする。暫く足を止めた後、涼一さんは、また前を向いた。そうして、徐々にきつくなる斜面を登り始めた。
私の手を、ぎゅっと強く握って。
「行き詰まって悩んで、呆然と車を走らせていたんだ。そしたら、なぜか妙に気になって」
「この場所が?」
「うん。変だよね。なんの変哲もない、鬱蒼とした林の中に、こうして分け入って、でも――」
「あっ……!」
一層ごつごつとした足場に、よろめいてバランスを崩した。だけど、すぐに涼一さんが身体を抱き止めてくれた。
「大丈夫?」
「……はい」
痩身ではあるけれど、やはり男の人。腰に回された腕が、がっちりと私の重さを支えていた。
「もう少しだから、がんばって」
「はい。でも、この先になにが……?」
「なんとなく、今日なら見れる気がしてさ。つっちーと一緒に、見たいんだ」
「……」
私と、一緒に……なにを?
涼一さんはまた、私の手を引いて山の斜面をぐいぐいと登る。生い茂っていた木々の中を抜けて、次第に辺りは岩肌が剥き出しとなっていた。私は何度も足を滑らせながら、その度に涼一さんに支えてもらう。
ああ、この人と共に歩めたら。そんな人生なら、どんなに救われることだろう。不意に、そんなことを思う。
駄目、駄目。期待しては、いけない。
私は頭を振った。夢をみると、戻ってくるのは悪夢。私の場合は、いつもそうだった。
そんな私の人生に、涼一さんを巻き込むことなんて――。
「つっちー」
「え?」
呼ばれて顔を上げると、涼一さんの姿が逆光の中にある。
「ほら、あと一歩」
ぐっと手を引かれて、私は涼一さんの隣に立った。